チオレドキシンは、大腸菌のDNA合成に必須な酵素であるribonucleotide reductaseに水素イオンを供与する補酵素として発見されました。ヒトのチオレドキシンについては、成人T細胞白血病由来因子(ATL-derived factor;ADF)として1989年に淀井によりクローニングされました。
チオレドキシンは-Cys-Gly-Pro-Cys-という大腸菌から哺乳類までよく保存された活性部位を持ち、この活性部位の2つのシステイン基の間でジスルフィド(S-S)結合を作る酸化型とジチオール(-SH-SH)を作る還元型が存在します。
チオレドキシンは紫外線、放射線、酸化剤、ウイルス感染、虚血再灌流傷害、及び抗ガン剤投与などにより誘導されることが明らかになっています。その誘導されたチオレドキシンの役割として、チオレドキシン単独で一重項酸素やヒドロキシルラジカルを消去する他、ペルオキシレドキシンとの協調作用により、ROS を消去する抗酸化物質として生体内で働くことが報告されて、種々の遺伝子発現を調節する転写因子や細胞内のシグナル伝達分子の活性を制御しています。
また、人の血液中にあるチオレドキシン濃度は様々なストレスにより上昇することから、血液中のチオレドキシン値を測定することで、私たちのストレスをモニターすることができると考えられます。また、体内のチオレドキシン量を増やしたマウスは、種々のストレスに抵抗性を示し、長生きすることから、体内でチオレドキシンの生産量を高めるか、チオレドキシンを飲んだり、注射したりして体内のチオレドキシン濃度を高めることにより、ストレスに対する抵抗性を高めることが期待されています。
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■ チオレドキシンの化学構造
■細胞内でのチオレドキシンの活動
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